島で暮らし、好きなことを生業にする

島&都市デュアルの楽しさや現実を知っていただくための『ザ・島&都市デュアルライフスクール』。今回は10月13日に大阪で開催された「こだわりモノづくり」の様子をご紹介します。

島の自然と都会の文化が同時に手に入る暮らしを提案してきた「島&都市デュアル」の出張型スクール“デュアルライフスクール”の「こだわりモノづくり」編が、10月13日に大阪で行われました。今回は淡路島から2名の講師が登壇し、好きなことを生業にしながら生きる、リアルな島の暮らしについて話しました。

暮らしの充実にはコツがいる!?
デザイナー・建築士夫婦が経営する「森果樹園×ツギキ」

この日、会場に集まったのは大阪や奈良からの25名。中には「いつか島に戻って貢献したい」という淡路島出身の人や、いよいよ就活が始まり「やりたいことで生きていきたい」という大学生の姿もあり、これから聞ける“島に暮らし、モノ作りを生業にする”二人の生産者のお話に、期待が高まっている様子でした。

森果樹園×ツギキ

トップバッターは、デザイナーをしながら“なるとオレンジ”の果樹園を運営する「森果樹園×ツギキ」の代表、森知宏さんです。

森さんは淡路島出身。大学時代は岡山でプロダクトデザインを学び、卒業後は生活用品メーカーで商品開発に携わりました。その後、淡路島に戻り、建築家の奥様と結婚し、森さんのおじいさんが運営していた“なるとオレンジ”の果樹園を引き継ぎました。現在は、デザイン業務との兼業で農園を運営しています。

“なるとオレンジ”の販路探しやマーケットへの出店、フレッシュジュース作りやパーラー運営。また、2歳になる息子さんの子育てやおじいさんの介護と、やることたくさんの毎日。

なるとオレンジサイダー

忙しくも充実した島暮らしを楽しむ森さんですが、“暮らしを充実させるコツ”があるのだそう。

「島暮らしは選択肢は少ないけれど、作りたいものはなんでも作れるのが魅力。たとえばなるとオレンジは絞ってジュースにすると美味しいと聞いてたけれど、それは世の中には見当たりませんでした。なので自分で作ろうと思って作りました」。

こうして新しいジュース“なるとオレンジ”が生まれたのですが、この新商品には、傷みやすく足の早い果物をジュースにすると、一度に大量の“なるとオレンジ”を消費できるうえに賞味期限も1年伸びるというメリットが付加されました。その結果、生果で売るよりも、少ない営業力と最小限のお客さん(販路)で済むという効率の良さも生まれたのです。

このように島暮らしの不便さを嘆くのではなく、目の前の課題をどう捉えるかで状況は変わること、なにより一つひとつの課題解決をポジティブに楽しむことの大切さを学べた森さんのお話でした。

森果樹園×ツギキ

参加者から「移住後は地域にすぐ溶け込めましたか?」という質問に対しては、
「昔ながらの集落に都会から移住するなら10年は顔を覚えてもらえないと思った方がいいと言われたことがあります。ぼくの住む地域も昔ながらの山間の集落ですが、ぼくの場合は祖父の孫という関係からのスタートなので3年目の割にはだいぶ馴染めているように思います。でも市街地や新興住宅地なら、そうした背景がなくても、すんなり溶け込めると思いますよ」との回答でした。

地道に地域の行事ごとに参加するなど、自ら動いていくことの大切さを教えてもらいつつ、
「“なるとオレンジがある生活って、素敵やん”と思ってもらえる暮らしを目指したい」と、
楽しそうに話す森さん。一家の生活を垣間見ることができた講演でした。

神様はそう簡単に楽させてはくれなかった!?
いちご農家でジャム屋さん「山田屋」

ジャムの山田屋さん

続いてのスピーカーは、6年前に夫婦で淡路島へ移住し、いちご農家とジャム屋を営む山田修平さんです。

山田さんは大阪のご出身。大学時代、高知で同じ農学部の同級生だった奥様と出会い、農業を生業にすることを決意。滋賀県の観光農園に勤めた後、淡路島へと移住し、現在は海の見える高台の農地でいちご農園を運営しながら、淡路島の旬の食材を使ったジャムを年間約30種類、販売しています。

ジャムの山田屋さん

春に開催する「JamSession」では、いちご農園でヨガや音楽を楽しめるイベントなどを企画し、毎年多くのお客さんを魅了。他にも、耕作放棄地に牛を放牧し、農地を再生させる活動を行いながら、“育てるところから収穫までを体験してもらう”体験農園「farm studio」の運営を目標に、農業の楽しさを伝えています。

様々な活動を通し、常に同じビジョンを見据え二人三脚で歩んできた山田夫妻が心がけていること。それは、「くれぐれも身の丈で進む」こと。そして「“受け入れてもらう側である”という姿勢を忘れず、地域の人に感謝しながら自分たちなりの貢献をすること」。そうした山田夫妻の謙虚に頑張る姿が地域の人の心象を良くし、心地良い暮らしや仕事をする秘訣のようです。

ジャムの山田屋さん

いまや島外でも有名な「山田屋」ですが、ここまでの道のりはそう簡単ではなく、特に開業当初は、“小さな洗礼”をたくさん受けたそうです。

「入ったご飯屋で歯の詰め物が取れたり、良く売れたイベントの帰り道に車のフロントガラスへ石が当たって割れたり…“いま~!?”というタイミングで小さな洗礼を受けて、神様はそう簡単には楽させてはくれないんだなぁと感じました。でも、たとえそうした逆風を受けても、覚悟を決めて課題を一つひとつ乗り越え続けていくことが大切なんだと思います」。
さらにもう一つコツは「“お金はあとからついてくる”と信じてやっていること」だそうです。
「“様々な経験やたくさんの人の支えがあって今がある”」と言う山田さんの、過程を大切にする丁寧な暮らしぶりが分かる講演でした。

山田さんと森さん

最後にお二人に、“淡路島に引っ越してよかったこと”を聞いてみると、
森さんは、「島での第一人者になれること(笑)」
山田さんは、「面白い人たちがたくさんいる(集まる)ところ」
まさにそれぞれの生活の軸となっている答えが返ってきました。

交流会

講演後は、淡路島から届いた「食のわ」のカレー、山田屋のジャムの試食、森果樹園×ツギキの“なるとオレンジサイダー”をいただきながらの懇親会。
その最中に今日のスクールの感想を伺うと、「淡路島移住の足掛かりができました」、「やりたいことで生きていいんだよと後押しをしてもらえました」といったコメントがあり、二人の生産者のリアルなトークは、参加者をしっかり刺激したようでした。

この暮らし体験のナビゲーターについて

藤本沙紀

お住まいのエリア:洲本市
職業・所属など:紡ぎ屋(ライター/プロデューサー)

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