地元の不動産屋だから分かる、移住のこと。住まいのこと vol.2

この連載を始めるにあたって「絶対ご紹介したい!」と思った方が、 今回お話を聞かせて頂いた和泉侃(いずみ かん)さんです。

東京から淡路島へ移住した芸術家、和泉侃さん

和泉侃さん

(淡路島の自宅での侃さん。毎度、美味しいお茶や和菓子でもてなしてくださいます。)

【和泉侃】
‘感覚の蘇生’をテーマに、音・香りを基軸とした総合芸術作品、インスタレーション作品を生み出すアーティスト。
時間に視点を置いた作品づくりが特徴。

そんなすごい方だと知ったのは、もっと後になってから。
最初、侃さんが私の不動産事務所に飛び込みで来られた時は、「学生さんかな?」と思っていました。
若くて活き活きとしていて、爽やかで、話しやすい。
芸術家と聞くと、とっつきにくいイメージがありますが、侃さんは最初から、身近に感じられるよう寄り添ってくれる方でした。

そんなちょっと異次元の方が、どうして淡路島を選んでくれたのか?
どんな家を選び、どんな暮らしをしているのか?
お話を聞かせて頂きました。

Q.なぜ淡路島を選んだのですか?

A.一番は香りですね。
淡路島が日本の香り文化の発祥の地だからです。
日本の香りの文化が根付いている場所に、ちゃんと身を置いて、制作することや、香りに対して、自分が向き合っていける土地だと感じました。

19歳から、世界一ともされる香りマーケティングの会社でお仕事をし、その後独立、化粧品の香りや香水の相談などを受けていた侃さん。
そんな中で、クライアントから「お香」の仕事が入ったとのこと。
香りや香水と、お香とは別物だそうで、コネクションもなく、どうしたらいいか全く分からなかったそうです。
そんな時にある人に誘われて偶然訪れたのが、日本の線香・お香の総生産量の7割を占める淡路島。
最初は東京から通って学びながらお香の仕事をし、淡路島での知り合いを徐々に増やし、やがて“香りのまち、淡路市” をブランド化するという願ってもない仕事の縁を市役所からもらったとのこと。
そうした経緯もあり、「淡路島で暮らすことはすんなり受け入れられた。全部が一致したと感じた」と侃さんは言います。

Q.この家を選んだ理由は?

A.一つ目は、壁を壊す以外何をしてもいい、という条件ですね。
この家に入った瞬間に「出来上がっていないから、作れるな」と思いました。
間取りも広すぎず、狭すぎず、丁度いい。
トイレは寒いし、車も前につけられないというデメリットはありましたが、でも不便だからこそ、知恵を絞り、工夫できる。自分らしい暮らし方を描くキャンバスとして最適でした。
あとは窓のサッシが気に入らないくらいかな。そのうち変えようと思ってます。

古い小さな一戸建ての物件に目をつけて、お問合せくださったのが最初です。
若い方は皆さん、なるべく新しくて、中が綺麗で、オシャレな部屋を探されます。
だからたぶん、この家を内見したら「やめとく」とおっしゃるだろうなと、私は思っていました。
ですが、実際は即決。めちゃくちゃ気に入られた様子でした。
ちなみに、ご案内した当時はこんな感じ。

(狭い路地を抜けた先にある小さな戸建住宅です。こちらは当時の写真。現在は、侃さんの手でどんどん進化中です。)

 

A.家を選んだ理由の2つ目は、ここでしか成立しない気配を感じたことです。
ここは見た感じ、築65年くらいかな?畳のあとや壁の色あせ、住んでいた人が刻んでいった時間があります。アンティーク調に似せて作ろうとしても作れない本物の暮らしの足跡。この家にはそれが残っていると思いました。

これは侃さんだからこその理由だと思いました。
その家が経た時間や、前に住んでいた人の痕跡に価値を見出すのは普通あまりないことで、そういう感覚や価値観を持てることに、羨ましさを感じました。
お話を聞くために、久しぶりにこの家に行ってみると、この家の痕跡、ここ特有の味や趣を残しながらも、あの頃のただ古い家というイメージがガラリと変わって、美しい佇まいの空間になっていました。

(こちらが、侃さんが入居される前の、玄関から見た家の中の様子です。)

(こちらが、侃さんが入居される前の、玄関から見た家の中の様子です。)

(玄関あがってすぐのホール部分の畳をはがして、中庭にしています。同じ家とは思えないほど、情緒あるお部屋に変わっていました。ただただ、驚きです。)

A.三つ目の理由は、ゲストがきた時に「淡路島の暮らし」というものがイメージしやすい場所だと思ったこと。キレイなものは都会にあるから、ゲストはそうじゃない場所を期待していると思う。ここでしか出来ないこと、体験できないことに価値があって、この家はそういう価値をゲストに提供するのに、最適な場所だと思いました。

職業柄なのか、侃さんの人柄なのか、とにかく多種多様なゲストがいらっしゃるようです。
淡路島といえば、玉ねぎとか海とか。観光地だったり、オシャレなカフェだったり。
それもいいけれど、それだけではない、
淡路島の暮らしが醸し出す空気感や情緒が感じられる場所になっているのだと思います。

Q.淡路島で暮らしてみてどうですか?

A. 他に類を見ないぐらい、暮らしに最適な場所だと思います。食は、山のもの、海のもの、野菜、淡路牛があって、全てハイクオリティでそろっている上に、安い。豊かで美味しい食べ物を、東京の4分の1の食費で食べられます。それだけじゃなく、明石海峡大橋のおかげで大阪や神戸に1時間程度で出られる。新幹線も近いし、関空への船もあるから、世界にも旅立てる。経済発信や経済活動など都市でしか叶わないことも、都市に近い淡路島なら叶えられます。今は、月の4分の1ほど東京へ出ていますが、島にいるほうが体が楽なので、淡路島にいる時間を増やしています。

野菜は産直売り場で、魚は近所の魚屋さんへ、卵は北坂たまごの“もみじ”を切らさないようにしている、とのこと。「近くで良いものが全て揃う」と侃さん。朝ごはんの様子を撮った写真を頂きましたが、それは美味しそうでした。

(卵かけご飯とお味噌汁です。そもそも、コンクリートブロックをテーブルにしてしまうセンスに脱帽です)

Q.一日の過ごし方は?

A.日によって全く違うので、なんともいえませんが、7:30~8:00に起きて、ご飯食べるか、外に走りに行くか。
その後、制作などの作業系をして、アポがあれば外出します。
でも、打ち合わせなんかもこの家に来てくれることが多くなってきたんですよ。
それ以外はPC作業や香りを作る作業をしています。
商品の開発とか、試作とか。本当に色々です。
午後はお昼を食べて、家事して、14:00から仕事を開始して。
作業は、ほぼ家でしていますね。
ゲストが来る日はつきっ切りでアテンドします。
夜は、地元の人からお呼ばれして出て行ったり。

淡路島では忙しくも、穏やかな毎日を過ごしている様子の侃さん。
「志筑のまちを変えたいんです」といつも夢のある話をしてくれます。
志筑で生まれ育った私としては、考えたこともなかったような志筑のまちのあり方や価値に気づき、嬉しい気持ちでいっぱいになります

 

連載第二回は少し変わった移住のカタチをご紹介できたのかなと思います。
転勤での移住、リタイヤ後の移住、農業をするための移住、子どものための移住。
移住にはいろいろなカタチがありますが“ご縁があっての移住”というのは、なんだか素敵だと思いませんか。
移住は、簡単なものじゃないと思いますが、そのハードルが少しでも下がればいいなと願いつつ、
今後もこの連載を続けていきたいと思います。

この暮らし体験のナビゲーターについて

横山夕納

淡路島で生まれ、淡路島で育つ。高校卒業後、10年間神戸へ。その後Uターンし、淡路島で姉が始めた不動産を手伝う。

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